2000年11月1日頃　東京都に生まれる。生後まもなく広報担当取締役(当時)Ｎ氏の養女となる。幼いころより、活発で、Ｎ氏の手を散々やかせた一方で、人見知りが激しく、甘えん坊の一面もあったという。
　　　　　　　　　　月極　力氏(118歳当時）

幼少時のニーチェ氏

　2003年5月5日、Ｎ氏の鞄にまぎれて出社し、そのまま取締役会議に出席してしまったときから、彼女の運命は大きく動き出した。
　 先代社長の月極　力（げっきょく　りき）氏は、この日、歴代社主の中でも最高齢となる118歳の誕生日を迎えた。そして、取締役会議で、かねてからの懸案事項である後継者選びについて、以下のように宣言した。

「ふぉのふぁいふぃふぃふにひるひょふんのふぁかで、もっふぉもひゅうひゃひょうにふぇいふうひたふぉのふぉじきふゃひゅとふる。」

　あろうことか、この大事に日に、力氏は入れ歯を忘れてきたのであった。　力氏の秘書で、ひ孫にあたる月極　智宏（げっきょく　ともひろ）氏が通訳をおこなった。

　以下がその翻訳である。

「この会議室にいる諸君の中で、最も駐車場に詳しいものを次期社主とする｣

　会議は紛糾した。4人の副社長、2人の専務を含めた12人の取締役はみな腹を探り合いながら自分が一番駐車場に詳しいことを主張していた。ただ、確かに、会議に出席していた取締役たちは駐車場のエキスパートではあったが、｢伝説の駐車場生き字引」と謳われた力氏の足元にも及ばない。加えて、現場を離れてからのブランクも大きく、みな決定力に欠けていた。

　自宅から届けられた入れ歯を着用した力氏が満を持して口を開いた。

「うおっほん。何をごちゃごちゃ、やっとるんだ。『俺に任せろ！』と自信を持って手を上げるものはおらんのか？｣

　そのとき、Ｎ氏のかばんの中からニーチェ氏が這い出し、テーブルの上で大きく伸びをした。

「ニャア」

　その様子を現在の副社長　月極　久子（げっきょくひさこ）氏はこう語る。

｢あの若さで、あの美しい姿からは想像もできないほど、堂々とされていました。確かに、私たちは社長(現社長　ニーチェ氏)の言葉は理解できませんが、自身にあふれた様子は、まさしく、『俺につい来い』とおっしゃっているように聞こえました。全女性社員の代表としても申し分ないと思いました」

もちろん、ニーチェ氏が社長になることに反対する声はあった。ニーチェ氏は社員でも、まして取締役でもない。しかし力氏は「この会議室にいる諸君の中で、最も駐車場に詳しいものを次期社主とする｣といったのであり、決して｢取締役の中で｣といったわけではない。そして、何より、ニーチェ氏が実際に、取締役の誰よりも駐車場に詳しかったのである。毎日朝早くより自宅周辺の駐車場をはじめ、各地に駐車場は視察して回り、日当たりのいい駐車場があると昼寝や、利用者との交流を図ったものだ。さらに、それぞれの駐車場に愛人がいるという噂まである。

かくして、ニーチェ氏は正式に月極グループ全30社の総帥になった。同時に月極　力氏の養女として迎え入れられ、N氏は広報担当取締役から社長室長としてこれまで以上にニーチェ氏の片腕としてサポートしていくこととなる。

社主就任後、ニーチェ氏は力氏の更なる寵愛を受け、帝王学を学びながら、日々社内を巡回し、各部署の社員の慰労に勤めている。このため、社員からの評判はすこぶるよく、信望も厚い。特に女子社員からは「かわいい」との声が絶えることなく、男性社員からは時として嫉妬の声さえ挙がるほどである。

2004年4月、アメリカ合衆国ジョージ・ブッシュ大統領と会談。米国の宇宙開発への強い協力要請を受けた。続いて、航空宇宙局NASA長官と会談し、すでに合意に達していた月面駐車場の最終設置計画書へ共同署名。1年後の設置が正式決定したのである。

就任から数年で歴史に残る業績を果たしたニーチェ氏は、すでに名社長といわれ、経済界でもその信奉者が多く、不況長引く日本経済建て直しの切り札として期待されている。

ジョージ・ブッシュ大統領と会談するニーチェ氏